ページトップ

目次

2011.03.11

vol.18 種のお話

DSC_0002-031011.jpg


春ももうすぐそこまで来ていますが、
皆さんは春まきの種の準備はできていますか?

春分をはさんだ7日間が、春まきの種をまくのに丁度良い季節と言われています。
その頃に慌てないように、
今年の庭のデザイン、暮しへの必要性を考慮して、今から種まき計画をしてみましょう。

今回は、そんな種にまつわるちょっとコアなお話をしてみたいと思います。

                 *

私は元々、
昔のイギリスのコテッジガーデンに咲いているような
ノスタルジックな趣のある花が好きでした。

そんなことで、
昔から引き継がれてきた、エアルーム(Heirloom)種の花に興味を持ち、
種を集めるようになりました。

と同時に、種には
ハイブリッド種もあることを認識するようになりました。
お花や野菜として眺めたり食べたりしていたものに、
ハイブリッド種があるのは分かっていましたが、
その大元は、すべて種から来ているのだ、とある日はっと気付いたのです。


ハイブリッド種というのは、皆さんご存知のように
長い年月をかけて環境に適応しながら生き延びてきた
昔ながらの固定種ーーー在来種や伝統種と違い、
人為的に開発されたものです。

作物の場合は、収量を上げる目的のため、
成長が早く、一斉に発芽して収穫できるという特徴があるのですが、
自然の状態では決して交雑しない品種同士をかけ合わせて作られたものです。

例えば、多収穫の植物と、実が早くなる植物を異なった種から選び、
人工勾配すると、多収穫の品種を作り上げることができるわけです。
そこでは、ピンセットで行うものから、
植物に放射線を施して突然異変を起こしたり、
細胞と細胞を無理矢理くっつける細胞融合など、
さまざまな技術が用いられるそうです。

異種間の生殖を拒絶する壁こそが、本来の自然の姿ーーー。
そこを越えようとする、
遺伝子組み換え。

収穫量が大幅に高まったために、
人々を飢えから救ったと言われてきたそうですが、
ハイブリッド種が高収穫量をもたらすのは、
化学肥料と農薬にあるという現実も忘れてはなりません。
短期間での収量アップの陰には、土の劣化、生態系の異変、
それによるさらなる化学肥料、除草剤、殺虫剤の必要性など、
一番肝心な、地球上の循環形態が
乱されてきているのも事実です。

DSC_0004-31011.jpg

便利さや合理性の恩恵にあずかる現代人の身としては、
それをむやみに批判することは難しいけれども、
人間の手の届かない領域には、
心を常に敏感にし続けていきたい。

何がこわいと感じるか、何を変だと思うのか、
そんな基準をいつも持っていたいと思うのです。

そんな意識や感覚こそが、多分、
地球の存続を繋げるひとつの鍵となるのではないでしょうか。

                *

種は、元々農家や家族によって、自家採取されていたものでした。

ハイブリッド種の種は一代限りの種なので、
その都度種子を購入しなければならないしくみなのだそうです。
一度ハイブリッド種を手掛け、自家採取をやめた農家は、
種子会社からしか種を得られない、
つまりずっと購買していくというシステムが出来ています。

私たちも、そんな種子のからくりに
無知、無関心でいることに、
そろそろ終わりを告げる時期にさしかかっていると思います。


                 *

私がエアルーム種の種を蒔き、その花や野菜を愛でることは
今や、ただその姿や味が好きだというだけではなくなりました。

在来種の種が消滅していかないようにーーー
現代人が忘れ去っていく、大事なことを失わないようにーーー

そんな願いも込めています。

DSC_0020-31011.jpg


次回は、
私もそのコンセプトにとても共感している、
ここベイエリアに支店を持つ、
種の会社のお話をしたいと思います。
どうぞお楽しみに!


○米国Seed Saver Exchange のエアルーム品種定義は「ガーデナーやその家族が北アメリカに移住した時にもたらされ、アメリカ原住民やアーミッシュによって栽培され続けてきたもの。」また「園芸植物が、ある家族の中で、家族伝来の宝石や家具のように歴史を持っているとされる品種」となっています。
現在「エアルーム品種」と言う言葉は、そのような狭義の意味だけでなく、欧米各国で広く「固定種」や「在来種」としても使用されています。

○種の中には、保存環境(暖かくて湿気のある場所、密封されていない状態など)や、種の発芽賞味期限により、発芽しないものがあります。また、発育不良状態で発芽しない種もありますのでご了承下さい。

プロフィール

加藤万里 -Mari-Kato-

フラワーデザイナー

加藤万里 -Mari-Kato-

カリフォルニア・バークレー在住、フラワーデザイナー。ハーバリスト。
1994年より、ロスアンジェルスで花教室FOLIAGEを主宰。
2004年秋より処点をバークレーに移し、06年、あらたに「お花会」という形でFOLIAGEを再開。その後、アロマクラス、ハーブクラスも増設。

フラワーアレンジ、アロマ、メディカルハーブ、ガーデニング、インテリア、手仕事など多方面から、花のある暮らしを提案すると共に、植物を通して、目に見えない大事なことを思い出していくための機会と場になることを願い、会を開催している。

また、昔ながらの暮しの知恵を取り入れ、現代風に楽しむことで、忙しい日々を送る現代人が忘れていることを取り戻していきたいと考え、スローライフを自ら実践し、提案している。

ロスアンジェルスの日本語情報誌「LIGHT HOUSE」にて、98年から02年まで「カリフォルニア花日記」「シンプルエコライフのすすめ」などの記事を連載。
09年春と秋にバークレーで、食とお花、食と手仕事をコラボさせたワークショップ付きの「カフェ・イベント」を開催。好評を博する。

著書に、ロスでの花生活を綴ったエッセイ『ガーデンダイアリー カリフォルニア 花と暮らす12か月』(講談社文庫 98年刊)がある。