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2014.08.26

vol.49 「コミュニティー・ハーバリスト」の生き方。

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バークレーの隣町、
オークランドで近頃にぎわいを見せている小さな通り、
Temescal Alley

ここにHomestead Apothecary という
アポセカリー・ハーブショップを構えている
Nic のことを知ったのは、昨年のこと。

小柄でもの静かなお人柄ながらも、瞳の奥に、
しっかりとした意思とビジョンを感じさせる彼と話をしてみると、
僭越ながら、同じく植物に携わって来た私自身の考えや哲学と、
共鳴、共感する点がたくさんあり、
同志を見つけたかのように、すっかり意気投合してしまいました。

そして彼のメディシナル・ハーブ(代替療法のひとつとして、
健康管理や健康増進、病気の予防、治療目的に用いられるハーブ。
人の体にもともと備わっている自然治癒力を利用する自然療法の
ひとつとして使用される。)
と、その普及に対する熱いパッションに、
この店がただ商品を販売するだけの店ではなく、彼の目指す
社会への想いが詰まった場であることを理解しました。


メディシナル・ハーブがもっと人々の手に入りやすくなり、
ハーブを購入するだけでなく、自分のためのブレンドを
自分で気軽に試して作れるようになり、もっと身近なものになること。
そして商品がどのような成り立ちで
ーーー植物が種から生まれ、育ち、収穫し、商品となるのか、
そのサイクルを知ってもらうこと。
そのために人々が植物を育てるきっかけを作り、
その教育をも考慮に入れた展望を抱いているNic は、
実にさまざまなアイデアを持ち、
そのひとつひとつを一歩一歩確実に実践、実現しているように見受けられました。

* * *

DSC_0258-082714.jpgNic の店では、例えば、ドライハーブは、
客がそれぞれ自分で瓶の蓋を開けてハーブをよく見、
においをかいだり体験できるように、棚に陳列されています。

自分に必要な量を考え、無駄もでないように自分で計り、
袋に詰めていく方式です。
店員任せにしないこの方法は、客自身が自分のことをよく
確認する機会をも与えてくれるのではないかと感じました。

また、商品化された物を消費するだけでなく、
植物が商品になるまでのサイクルを人々に知ってほしいと考えるNic は、ガーデニングを必須だと言います。

現代の人々に不足している、土と触れ合う機会の大事さ。
そして、土からの栄養を人間が摂取することも必要だと言い、
彼自身、ガーデニング、ファーミングをする時には裸足で
行うのだそうです。

また、子どもたちの教育にも余念がなく、キッズクラス、
ワークショップも開催しているそうです。
母の日にはハーブのバントルズ作り、ハロウィーンには
ポーション作りなど、子どもたちが気軽にハーブに触れ合える
楽しそうな企画を行っているようでした。



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自然光が優しくさし込む店内には、100種以上のバルク売りのドライハーブ、ティンクチャー、スキンケア商品、エッセンシャルオイル、フラワーエッセンス、植物関連の古本、その他の小物が。

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人気のあるブレンドのひとつ、Roll-Your-Own herbal smoking-cessation mix(禁煙のためのミックス)/左 
そしてSweey Dreams ハーブミックス(不眠症のためのハーブ)/右 
その上のティーのブレンド瓶(横長写真)は、Sweey Dreams の他、Allegy Slayer(アレルギーキラー)、Brain Booster(頭脳活性化)など、症状別に名前が付けられたティーミックス。

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神経、免疫、肌へのハーブアプローチをまとめた小冊子。アーティストの友人たちに絵やレイアウトを任せたりと、コミュニティの
繋がりを感じさせられると共に、メディシナル・ハーブが人々に気軽に浸透していくための彼のパッションが伝わってくるかのよう。


* * *

「これからの展望や夢、プランは?」とNic に尋ねると、
すぐさまはっきりとした答えが返ってきました。

まずはファームをスタートすること。
そのために、ファーミングに一切機械を使用しないで行うというファーマーと、
ハーブファームを作る話を進めていると言います。

フレッシュのメディシナル・ハーブ(種も含む)に対する需要はあるものの、
なかなか気軽に手に入れられる市場がまだ出来ていないのが現状のよう。
まずはファームを作り、苗も育て、それをファーマーズ・マーケットで販売して
消費者に提供する。
そこからメディシナル・ハーブを育て触れ合う人々が出、
その人たちが自分で種を採取し、友人知人に配って広がっていくーーー
という社会のサイクルができることを望んでいると話してくれたNic。
ファームの設立は、その夢の第一歩になるに違いありません。

また、今は開催するワークショップが
すべてソールドアウトの満席状況なのだそうです。
なので、店を拡張して、もう少し大きなクラスやワークショップを行える
キッチン付きのスペースにして、裏には鍼やマッサージなど、
Alternative medicine center (代替医療センター)のような
オフィスがある場を作りたいと夢を持っているようでした。

また、ガーデニングの普及を思うと、
コミュニティ・ガーデンなどは、ウェイティングの人々が多く、
まったく需要が満たされていないのが状況だそうです。

彼が考えているひとつのユニークなアイデアは、
街中にある空き地を土地所有者に問い合わせ、
そこをガーデニングや人々が集まってお茶など飲める交流の場に再生すること。
まさに、ガーデニングを付加価値として「利用」した、
コミュニティ・スペースのアイデアを話してくれました。

彼の熱い思いとアイデア、実行力はとどまることを知りません。
そして、それは私自身含め、多くの人々をもインスパイアしていく力があると感じました。

* * *


Nic は、ひとり静かにハーブを研究するにとどまるタイプのハーバリストではなく、
自身のことを「コミュニティー・ハーバリスト」と呼ぶように、

正にこの辺りのローカルの人々ーーーファーマーと消費者だけでなく、
クラフトを作る人、アーティスト、料理人、
オルタナティブ医療(代替医療)に従事する人々など、
そういったハーブに関わる人々の輪をダイナミックに繋げ、
働きかけていく存在なのだと思います。


将来はローカル・フードのムーブメントのような、
ローカル・ハーバルメディスンのムーブメント」を作りたいと
語るNic の中には、自身が病気をハーブで回復させた実体験に基づく、
ハーブに対する信頼感がベースにあるに違いありません。

そして彼の芯には、お金のために働くのではなく、
自分のミッションに沿って誠実かつ真摯に実現していく強さというものが
みなぎっているように感じました。


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DSCF7608-082714.jpgNic Weinstin のこと

ロスで生まれたNic は、子どもの頃は特に植物と接する
機会もなく、興味もなかったそう。
父親は写真を撮る人で、その影響もあって彼自身も
写真を摂ったりアートをしたり、archivist(記録保管人)の
仕事をしていたこともあった。

しかし副腎の病気が、彼の人生を変えるきっかけとなる。

西洋医学ではなかなか回復が期待できなかったため、
オルタナティブな治療をと、あるハーバリストの医者にかかり、そこで処方されたハーブで画期的に病気の症状が回復したのをきっかけに、
メディシナル・ハーブの道へ進むことを決意する。

長くサンフランシスコに住んでいた彼は、パートナーと一緒に
マサチューセッツに移り、その間田舎のファームに住み込み
ながら、ハーバル・メディスンを勉強する。


その後、2012年にここベイエリアに戻り、友人たちの勧めもあり、
ソーシャルファンディング(不特定多数の人がインターネット経由で
他の人々や組織に財源の提供や協力を行うこと)によって、
オークランドにHomestead Apothecary を開店させ、今に至る。

昨年は、この Temescal Alley にてハーブ関連の仕事をする人たちの
ブースを集めたハーブ・フェアを主催したりと、メディシナル・ハーブが
浸透したコミュニティ作りを実現するために、アクティブに活動している。


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HOMESTEAD APOTHECARY


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ADDRESS: 486 49th St #C, Oakland, CA
HOURS: 10am - 5pm Everyday
EMAIL: HomesteadApothecary(at)gmail.com

プロフィール

加藤万里 -Mari-Kato-

フラワーデザイナー

加藤万里 -Mari-Kato-

カリフォルニア・バークレー在住、フラワーデザイナー。ハーバリスト。
1994年より、ロスアンジェルスで花教室FOLIAGEを主宰。
2004年秋より処点をバークレーに移し、06年、あらたに「お花会」という形でFOLIAGEを再開。その後、アロマクラス、ハーブクラスも増設。

フラワーアレンジ、アロマ、メディカルハーブ、ガーデニング、インテリア、手仕事など多方面から、花のある暮らしを提案すると共に、植物を通して、目に見えない大事なことを思い出していくための機会と場になることを願い、会を開催している。

また、昔ながらの暮しの知恵を取り入れ、現代風に楽しむことで、忙しい日々を送る現代人が忘れていることを取り戻していきたいと考え、スローライフを自ら実践し、提案している。

ロスアンジェルスの日本語情報誌「LIGHT HOUSE」にて、98年から02年まで「カリフォルニア花日記」「シンプルエコライフのすすめ」などの記事を連載。
09年春と秋にバークレーで、食とお花、食と手仕事をコラボさせたワークショップ付きの「カフェ・イベント」を開催。好評を博する。

著書に、ロスでの花生活を綴ったエッセイ『ガーデンダイアリー カリフォルニア 花と暮らす12か月』(講談社文庫 98年刊)がある。