ページトップ

目次

2010.06.13

vol.5 人と人をつなぐラヴェンダー(1)

DSC_0064-2.jpg

一体今まで、何人の方々に
このラヴェンダーバントルズをお分けしてきたのでしょう。

毎年6月の声を聞くと、
徐々にその薄紫色の花をほころばせ始めるラヴェンダーと
まるで呼吸を合わせるように、

ラヴェンダー・バントルズ作りを行うようになりました。

清々しくもほんのりと甘く、爽やかな花の香りを封じ込めるように
作り上げるラヴェンダー・バントルズ。

ノスタルジックで素朴さが魅力のこのハーブのクラフトは、
私がまだ自分の庭を持たなかった頃から、ずっと憧れ続けてきたものでした。


自分の庭で 満開のラヴェンダーをそばにすることができるようになってからは、
このハーブの香りと喜びを
ひとりでも多くの方に届けたい...そんな想いで、
毎年毎年、このクラフトを飽くことなく作り続けています。

               *

DSC_0014-1.jpgお友達や家族はもちろんのこと、
ご近所やお世話になった方々、バザーや寄付、
それはそれはたくさんの方々に
このクラフトをお渡ししてきましたが、
知人の赤ちゃん誕生のギフトに
小さな洋服に添えてこのバントルズをお渡しした際、
この脇役である「香りのギフト」を、主役の洋服以上に喜んで頂いたことがありました。

この可愛らしいスティック状のリボン姿。
香りの楽しみというおまけ。
そして手作りという要素が人の心をほっとさせ、
気持ちを届けやすくするのでしょうか...。


このように
数え切れないほどの方に差し上げたその数だけ、
たくさんの素敵な思い出があるのですが、

私の中で忘れ得ないエピソードーーー。


それは、今のバークレーの家と出逢った時のお話です。

                *

今私が住んでいる家を見学に来た時、
裏にある庭を見た瞬間に、以前何度も訪れたことのある
イギリスはコッツウォールズの庭園、バンズリー・ハウスをふと思い出しました。

規模こそ違えど、
チャールズ皇太子と親交のあった有名なガーデン・デザイナー
故ローズマリー・ヴェアリーさんのチャーミングで、
植物への愛と歓びに溢れた あの大好きな庭と共通するようなエッセンスが感じられたのです。

もう、この家以外に住む家は考えられない!と思うほどに、
この家への想いが募りました。

バークレーでは、
家のオーナー(売り手)に、オファーの際に手紙を書くことができます。

私は、オーナーの方が例えご存知なくとも、
とにかく自分の溢れる気持ちを伝えたい一心で、
イギリスのローズマリーさんの庭を思い出し、
どうしてもこの庭のある家に住ませて頂きたいと手紙にしたためました。

その手紙と一緒に添えさたのが、
それまで住んでいたロスの庭で育てたラヴェンダーで作り、
バークレーに持ってきて保存していた
ラヴェンダー・バントルズでした。

「この想いが、伝わりますようにーーー」

そんな願いをラヴェンダーが受け取って、
オーナーに繋げてくれたのでしょうか...。

リアルターの方に預けた
私の手紙とラヴェンダー・バントルズを受け取ったオーナーは、
手紙を読んで涙を流し始めたそうです。


「ローズマリーは、私の友人なのよ...」と。

そしてリアルターの方は、驚いた声で、こんなことも伝えてくれました。

「この庭のことも含め、あなたたちにこの家を引き継いでほしいと思ったのかしら、
好条件のオファーをして来る人たちは他にたくさんいたのだけれど、どうしてもと、あなたたちを選んだのよ。
まったく、今までリアルターを長くしてきたけれど、こんなこと、初めてよ!」


DSC_0003-7.jpg

ーーーこうして、私たちは幸運にも、今この家に住むことができるようになりました。

偶然にも、この家のオーナー、マーガレットさんは
私の敬愛する女性、
2008年に92歳で亡くなった、アメリカの絵本作家であり素晴らしきガーデナーでもあったターシャ・テューダーさんの、親戚の方でもあったのです。

正に、「庭」がご縁となった、このバークレーの家。


はたしてあの時、
思い切って書いて渡したあの手紙だけで、
私の思いは伝えることができただろうか......


今でも、そんなことをふと思うことが
あります。


もしかしたら、ラヴェンダー・バントルズが
大事なキーパーソンとして、手紙の傍らにいてくれたから、
このご縁が繋がったのではないだろうかーーー。


声も出さず、言葉も話さない植物。


でも、私は通い合う何かーーー
言葉なき言葉と想いを、ラヴェンダーがとりもってくれたのではないかと
今でも心のどこかで思っているのです。

後半では、ラヴェンダー・バントルズの作り方をご紹介します!

つづく

 

プロフィール

加藤万里 -Mari-Kato-

フラワーデザイナー

加藤万里 -Mari-Kato-

カリフォルニア・バークレー在住、フラワーデザイナー。ハーバリスト。
1994年より、ロスアンジェルスで花教室FOLIAGEを主宰。
2004年秋より処点をバークレーに移し、06年、あらたに「お花会」という形でFOLIAGEを再開。その後、アロマクラス、ハーブクラスも増設。

フラワーアレンジ、アロマ、メディカルハーブ、ガーデニング、インテリア、手仕事など多方面から、花のある暮らしを提案すると共に、植物を通して、目に見えない大事なことを思い出していくための機会と場になることを願い、会を開催している。

また、昔ながらの暮しの知恵を取り入れ、現代風に楽しむことで、忙しい日々を送る現代人が忘れていることを取り戻していきたいと考え、スローライフを自ら実践し、提案している。

ロスアンジェルスの日本語情報誌「LIGHT HOUSE」にて、98年から02年まで「カリフォルニア花日記」「シンプルエコライフのすすめ」などの記事を連載。
09年春と秋にバークレーで、食とお花、食と手仕事をコラボさせたワークショップ付きの「カフェ・イベント」を開催。好評を博する。

著書に、ロスでの花生活を綴ったエッセイ『ガーデンダイアリー カリフォルニア 花と暮らす12か月』(講談社文庫 98年刊)がある。